【完結保証】シェアルームには私を振ったアイツがいる

 雨は、しとしとと連日降っていた。晴れたら干そうと思っていて、つい溜め込んでしまった。ランドリーバスケットには山盛りの洗濯物。

 1回じゃ終わらず、2回目を回す。ずっしりと重くなった洗濯物を再びランドリーバスケットに入れる。これはコインランドリーか、部屋干しでなんとかしないと駄目だろう。両手で抱えて身体全体でドアを押し廊下へ出た。

 すると、ガチャリとタイミングよく玄関の扉が開かれた。帰ってきたのは清水くんだ。傘を玄関にたたんで入れるている姿を見ていると、ちらっと視線が合った。

「……おかえりなさい」
「ただいま、大塚さん」
 
 どんより曇り空と雨のコンボを吹き飛ばすような爽やかな笑顔を向けてきた。なんとも当たり前のように、カッコいいが極まってる。思わずくるりと振り向いて部屋に戻ろうとしたときに、私のランドリーバスケットから何かがポロリとこぼれ落ちた。

「あれ、大塚さん。なにか――」

 清水くんは廊下に落ちた薄い桃色の布を、拾おうとした。
 まるでスローモーションのように、拾うその姿を、私はじっと眺め――。

 落ちたのは……

 薄い、桃色の、布……?
 くしゃっとした、小さめの布……。
 拾った手から白いレース布地がちらりとのぞき見える。

 それは、
 
 まさか。

「……」

 マズい。
 すごく、とっても、非常に、マズい。

 私はそれが、清水くんの手にあるものの正体に気付き、悲鳴をあげたくなった。でも、洗濯物のカゴで両手が塞がった状態でどうしろと? 清水くんは手の中にあるものが何かを一瞬で察したらしく、固まった状態になってしまった。

「清水くん! ご、ごめんなさい! 変なの見せちゃって!」

 ランドリーバスケットをひとまず投げるように廊下に置き、バッと清水くんの手から――

 レース付きショーツをもぎ取ってランドリーバスケットの山の上へ放り投げた。

「あっ、いや……! でも変なのじゃ、ないよ、大丈夫! うん、かわいい下着だと思う」

 清水くん!!!!!
 苦しいフォローをなんとか頑張って入れようとして、大爆死してる!

「あっ……!」

 自分のパニック発言の不味さに気付き、彼は耳まで真っ赤になってしまっている。思わず、否定するように手を前にかざし、首を振った。

「いや、違う……そういう意味じゃ。ほらその、その下着、大塚さんに似合ってそうだと思うし! 色合いも絶対……」

 清水くん!?
 挽回しようとしてかえって酷くなっている。聞いているこっちが恥ずかしい。なんとかしようと私は清水くんの口に手を当てつつを壁に押し付けるようにした。
 
「少し、落ち着きましょう……!」

 こくこくと頷き、彼と視線があった。お互いに顔が真っ赤になっている。ごめんなさい、清水くんは悪くない。全て私のせいです。うっかりと落とした私のせい。バクバクと鳴り止まぬ心臓。

「……と、と、とにかく」

 落ち着いたころに彼の手が、私の手首をつかんだ。

「違う、今のはほんと誤解で、大塚さん」
 
「ごめんなさい、本当に……私の落とし物についても、忘れてもらえれば……」

 ……清水くんは、「なんか、ごめんなさい……」とだけいって、申し訳なさそうに私をみていた。