「ノア様、そろそろオークションの時間でございます」
「ああ、もうそんな時間か」



マックに言われて今日の最後のスケジュールを思い出す。
今日は違法に人身売買をしているオークションに潜入し、貴族たちの目星を付ける仕事があった。
ここを摘発することができればこの国からまた一つ犯罪がなくなる。
王子直々に行くのはどの貴族も今は信用ならない状況だからだった。



「行こうか、マック」
「はい、ノア様」



僕は軽く身支度を整えてから執務室を出た。
本当はこんなことをしている場合じゃないが、仕方ない。
この国の王子である以上、最低限の仕事はしなくては。



*****



「さあ、本日の目玉はこちらの美女!銀の髪はシルクのように美しく、瞳は燃えるルビーのような輝き!肉付きもほどよく歳は19歳!こちらの美女、お値段は100万ルーから!」



人身売買オークションの司会が煌びやかな会場の舞台で声高らかにそう言って檻の中で座っている女を会場中にアピールする。
檻の中に座っている女に僕は目眩を覚えた。



「何と美しい娘だ!」
「欲しい!」
「愛妾にいい!」
「私の奴隷にするぞ!」



会場はそんな僕をよそに大いに盛り上がる。
美しいのなんて当たり前だ。
彼女より美しいものなんてこの世には存在しない。
何故なら彼女こそが僕のエラだからだ。

檻の中にいる彼女は5年前の可憐な少女ではなく、艶を帯びた大人の女性に成長していた。
あの美しい絹のような銀髪。
あのルビーのような輝きを放つ瞳。
僕のエラだ。やっと見つけた。