美しい思い出からまたエラのいない辛い現実に戻ってくる。
僕は手に持っていた資料を軽く整理して机の端へ置いた。


彼女と離れることは何よりも耐え難いことだった。

だが、彼女は隣国の貴族だ。
いつかは帰らなければならない。
だから僕はいつか彼女を婚約者としてこの国へ向かえる為にたくさん準備をした。

毎日手紙を書いたし、週に一回は花束を送った。
エラから返事がないことに焦燥感を抱いたが、約束の二週間後に本人に直接会って理由を聞けばいいとその時は我慢した。

しかし僕はこの時まだ知らなかったのだ。
エラという隣国の貴族は最初からいなかったということを。

エラが帰国して二週間後。僕はエラに会いに行った。
でもそこにはエラはいなかった。
確かにエラの家はあった。
だが、そこには〝エラ〟という貴族はいなかったのだ。

そこで僕は気づいてしまった。
あの僕の目の前で笑っていた美しく可憐なご令嬢は偽りの姿だったのだと。

城へ帰ってエラの情報という情報を全て調べた。
しかしその全てがでたらめで嘘の情報だった。

エラが消えて1年目、隣国中の貴族からエラを探した。
2年目、隣国中の平民からエラを探した。
3年目、自分の国の貴族、4年目、自分の国の平民。
ずっとエラを探し続けたが、それでもエラは見つからなかった。
だから今はまた自国の全ての者をもう一度調べ始めているところだ。時間さえあれば自分で探しに行くこともある。

ここまで探しても見つからないということはエラはきっと意図的に僕から身を隠しているのだろう。