「残念だけどこの中にはいないね、僕のエラは」
「そうですか…」
僕の返事を聞いてマックは肩を落とした。
エラは5年前、僕の国の学院に留学に来た隣国の貴族だ。
歳は僕と同じ19歳。当時は14歳。
最初こそ美しいご令嬢としか思っていなかった僕だったが、段々と彼女に惹かれ、ついには恋人同士にまでなれた。
だが、彼女は僕に嘘をついていた。
彼女は隣国の貴族なんかではなかったのだ。
それでも僕は彼女を愛している。
例え偽りの存在だったとしても、あのお互いを愛し合った時間は確かなものだったから。
僕はまたいつものようにエマと過ごした美しい日々を思い浮かべた。
今は会えなくても思い出の中でなら君に会える。
*****
「エラ、足元に気をつけて」
「はい、ノア様」
僕の最愛の人、エラの腕を優しく引き、この学院の庭園をエスコートする。
僕にエスコートされているエラは終始穏やかな、そして何より幸せそうな笑顔を浮かべていた。
僕はそれが何よりも嬉しく、今までに感じたことのないほど満たされていた。
この学院の庭園は人工ではあるが、人工だからこその美しさがある。
所々に流れる川に美しい花が咲き乱れ、その自然に誘われてやってきた鳥や蝶々が舞っている。
その中で笑うエラは何よりも美しく、何にも代え難いものだった。



