「エラ」
思わずエラの名前を呼んでしまう。
エラは思わぬところから僕に名前を呼ばれて驚きの表情を浮かべた。
ルビーの瞳がまた僕を捉える。
「どうです?近くで見ればますますその美しさが際立つでしょう。エラと名付けられたのですか?」
「…彼女には名前がないのですか?」
「ええ。彼女はうちの商品ですのでそのようなものはございません」
「…そうですか」
上機嫌なオークション主の言葉に僕の心はどんどん重くなっていく。
僕から逃げて彼女の身に何があったのか。
あんなにも美しく可憐だった彼女は今の今までもののように扱われて生きてきたのか。
彼女は蝶よりも花よりも丁寧に扱われなければならないのに。
やはり彼女にもう自由を与えてはいけない。
「…エラ」
僕の仄暗い感情がエラに伝わってしまわないように、昔のような優しい笑顔を僕は浮かべる。



