らしくしよ、恋ってやつを


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「詩姫、椿冴さんは?」
「そろそろ、着くと思うよ」
「そう。ならその後の案内、任せたわよ」

いつも通り、旅館の女将としてのお母さんはいつでも忙しそうで。
お母さんから頼まれ、急ぎで花を生けて欲しいと私から連絡を貴公子にいれたのだ。

ロビーで待っていれば、新聞紙に包んだ花を手に、貴公子がやって来た。

「よ、皆森。来たぜ」
「助かるっ……こちらでございます」

そのままエレベーターに乗り、上の階へ。

「急な連絡だったけど、なんかすげぇ人でも泊まんのか?」
「あー、どっかの社長さんらしいよ。わりとこだわりがあるとかで、一番お高い部屋に泊まるっていうからさ。悪いな貴公子」
「なるほどな。いや、別にいいけどよ」

エレベーターをおり、廊下を進んだ一番奥の部屋へ貴公子を案内し、掛け軸の隣に生けて欲しいと頼んだ。
それから貴公子は花を広げ、丁寧に一輪一輪花を生けていく。

その後ろ姿を、私は少し離れたところから見つめていた。近くにいて集中を削ぐのも嫌だから、何も言わずただ見ているだけ。