らしくしよ、恋ってやつを


「旅館、継ぐの嫌なのか?」
「っ……」

まさか旅館に関して聞かれるとは思っていなかったから、不意をつかれた気分だ。
だから、驚いて黙り込む私を、貴公子は肯定と感じたのかもしれない。

「あぁ……別に答えなくてもい──」
「嫌、っていうか……どう考えても、女将って柄じゃないでしょ?貴公子も知っての通り、表向きでは大人しそうにしてても、本当は口が悪くて、品のかけらもないんだから」

女将になったって、すぐボロが出るに決まってる。髪だって黒のままかもしれない。

だからこうして一人時間を潰しては、継がなくてもいいような逃げ道探しをしたくなる。
子供の頃は、お母さんみたいになりたい!って夢見ていたのに……それが近い将来現実になるって思うと、焦りや不安が毎日のように募っていく。
何で継がないといけないのか、私がやるべきなのか、本当にそれでいいのか、後悔しないのか──時と場所関係なしに幾度となく、自問自答してきたけど、いつも自分にとっていい回答が見つからないまま。