らしくしよ、恋ってやつを



「椿冴」
「は……い"っ!?」


──え……

「ん、どうしました?」
「い、いえ、少し緊張してしまっただけです」


貴公子は私の顔を見るなり、ぎょっとする。それを鼓さんが不思議がると平静を装って立ち上がった。

「何事も経験ですからね。私がいなくとも、皆森旅館の大事なお嬢様。緊張するのは分かりますが、きちんとお教えするのですよ?」
「はい」


え?……鼓さんが指導してくれるんじゃないの?

「年も一つ違いですし、詩姫さんも話しやすいでしょう」

私も、きっと貴公子も話しやすいなんて、お互いにそんなこと思ってないと思うのに。

「それに、長いお付き合いになるのだから、親睦も深めておいて欲しいの。ふふふ」

意味深な言い方に聞こえるけど、あくまで旅館持ちと華道家としての関係のこと。


「では、私は失礼しますからね」

静かに襖が閉められ、二人になれば当然沈黙が訪れる。それも立ったままで。

やはり仮病でもなんでも使って、帰った方がいいかもしれない。
私も貴公子も、予想外だったみたいだし。

このまま沈黙でいるのはさすがにきついから、帰る言い訳を考えようと思った矢先、貴公子は頭を掻きながら息を吐いた。