らしくしよ、恋ってやつを


──どうしよう、全く話を聞いてなかった。
というより入ってこなかった。


とりあえず笑顔を浮かべ乗り切り、鼓さんにお茶を出すからと、貴公子と言われた孫をロビーに置いて私も一緒に事務室に向かうことに。



──その後、母に聞き直せば、今までロビーに生けていた花を、華道家の鼓さん……ではなくその孫の──鼓 椿冴がやることになったという。
孫に経験を積ませたいと、長年うちの旅館の花を担当していた鼓さんに持ちかけられた、というわけだ。

それで今、私はこっそりその貴公子を覗いている。

いくつもの花を自身の周りに置き、丁寧に生けていく。


誰あれ──


出会い方があんな感じだったから、第一印象が微妙チャラ男だったのに。
華道界の貴公子?
さっきはアクセサリーだらけでいたのに、今は一切身に付けていないし。

ありゃ本当に私が会った人と同一人物……?
目を細めて確認していれば、私の視線の圧に気付いたのか、手が止まった。


──やば……!!


こちらを向いてくる寸前で、身を隠す。


「って、なんで隠れてんの私」

自分の家みたいなものなんだから、その必要性ないのに。