Roadside moon

















「──それでそれで?」





「え、やちょ、待って」





「あのあと!なんかあったんでしょ!」





「べ、別になにも…」





「うそ!龍くんと出てったじゃん!」





なんかふたりで話してたんでしょ!





「ねえ、ねえねえねえ」





「鼓膜が破れるよ」





甲高い綺世の声がダイレクトに響く。





身を捩って抵抗する。





「綺世たち、あの人から聞いてるんじゃないの?」





「あの人って龍くんのこと?」





「うん。なんか、私の口からっていうのも違う気が…」





あの人、総長様なんでしょ。









呆れ半分に言い返す私に、綺世はキョトンとした顔で言い放つ。





「なんにも聞かされてないから聞いてるの」









──サヨちんに聞くしかないの!














綺麗に教室中を駆け回った綺世の声に、私は思わず苦笑する。





あの日から今日で二日。





迎えに来てくれた旭とは、あれ以来口を聞いていない。





というよりは聞いて貰えない、と言った方が正しいか。





どうしてと





何度聞いても彼は答えをくれなかった。





『行くな』





あの時、旭の言葉を無視していなければ多分こんなことにはなっていないのだろうと思うといたたまれないけれど。





それでも私の家はあそこで





流れる時間も朝も、平等にやってくる。





だから私は、今日もあの家に帰らないといけない。





「…はあ」





加え





もう一つ、心に引っかかって離れないことが。





それは。





あの夜。





あの人の、衝撃発言。









『──(ウチ)においでよ』















「…なんだったんだ、あれ」









とびきり甘い。低い音。





運のないことに





私の耳には、未だにあの声がこびりついたまま。