機械的なその顔に、男はニヒルな笑みを貼り付ける。
まるでこちらをおちょくる表情。
隣から聞こえた小さな音は、おそらく綺世の舌打ちだったのだろう。
「…龍くん、そういうとこあるよね」
妹の考えが痛いほど分かる。
肩書き、今までの恩、全部忘れて手を出したくなる瞬間は、きっとあってもいいのだと思う。
「どういうとこ?」
「…教えてやんない」
大きな足音を連れ立って部屋を出ていく綺世の背中を眺めながら、小さく息を吐いた。
普段はこんなことで怒るような奴じゃないんだが。
一人の人間の存在がこうも大きく人間を変えてしまうものなのかと、改めて驚嘆する。
「…不思議なもんだな」
「なんか言った?」
「教えてやんない」
「…なにお前ら反抗期なの?」
まあいいか、と呟いて龍がソファに沈み込む。
いささか勝ち誇った気分になるのはおそらく
龍が知らぬことを、今、俺だけが知っているから。
「お前までなんなの」
「…なんでもねって」
「やめてくれよ、なんかざわつく」
「いい気味だ」
