Roadside moon











それから数分ほどしてインターホンが鳴った。





淡い線香の香りに乗ってやってきたのは





無論、母の幽霊なんかではなく。









「…珍しいな。お前がアポなしで来るなんて」





「そういう日もありますよ」





「別にいいけどよ」





「話、しようと思って」





「…なんの?」





非常に稀なことだ。





この男──吾孫龍も、家に来る時はきまってなにかしら連絡を寄越す奴で





俺は直感する。





優先すべきことができたのだと。





コイツの中で。
『今から行くよ』などというメールを打つよりずっと、優先しなくてはならないことが。











「──“サヨちゃん”のこと」





「…」





綺世の眉がピクリと揺れる。





俺とて例外ではなく。





あの子を渦中に巻く話。





だとすれば





「聞く?」





「…勿論」





聞かない





そんな選択肢は無い。





「サヨちんが?」





「綺世ー、殺気が。漏れてる漏れてる」





「…誰のせいだと」