「なに、亜綺ちゃんも一緒に走りたい?」
「…なんでそうなるの」
「そんな顔してるよ」
変なところで鋭いのが困る。
「してねえよ」
心当たりがないはずもないのだ。
──走りたい
前提として俺は不良だけれど
それ以前に、純粋に単車が好きで。
アイツ──皆瀬小夜の走りを見たとき、全身に走った鮮烈な刺激。
生涯消えない生傷を負った。
叶うのならもう一度近くで拝みたい。
そう思った。思ってしまった。
冷めやらぬ興奮はあの日から、頭にこびりついて離れずにいる。
「…いいよ。俺は一旦」
「そう?」
「うん。怪我させんなよ」
「わかったよ」
なんか亜綺ちゃん、だんだんママに似てきたね。
綺世が笑う。
本当なら私が似たかった、と付け足して。
「普通にお前のが似てるよ」
「パパ似だって自覚してる」
「…父さんもイケメンだろ。だいぶ」
「女の子だよ私」
ふわりと香ってくる懐かしい香。
思わず苦笑する。
なんてタイミングだ。
「…お前いつ線香あげた?」
「え?私あげてない」
「…そ」
「…もしかしてまた匂うの?」
「や、多分気のせい」
「なにそれ」
怖いからやめて。
小さく語気を震わす綺世に、小さく笑う。
