『皆瀬小夜 KotoGP最年少V』
『世界記録更新』
『日本バイクメーカー界巨匠・川本社長絶賛“彼女はライダーになる為に生まれてきた”』
『“世界最速JK”爆誕・今後の活躍を乞うご期待』
思い思いに綴られた文字の羅列を眺めて
ふと、我に返る。
「…マジじゃん」
思い返せばなんとなく辻褄が合ってしまったりする。
聞いたことがあるような気がしたのだ。
『皆瀬小夜』
その時は、そこまで深く考えなかったけれど。
思い出した。
どうりで。
我らが日本を代表するロードクイーンだった。あの子。
「すげえな」
いやでも。そうかたしかに。
あの日、たしかに見た。
単車の捌き方。
違いなく一級品の技術だと、思った。
あの夜。何キロ出していたのかすら覚えていないが何より、いつからか、本当に記憶がない。
ただひとつぼんやりと覚えているのは
あいつが小さく笑っていたこと。
あれはきっと
心底楽しい、の笑みだった。
というか。
「お前はなんで言わないの…」
──綺世はなぜ、こうも重要なことを。
我が妹ながら愚問である。
抜けている、と言えばそれまで。
あまりに世間を知らず、あまりに鈍く。
大きく息を吐いた。ほとんど呆れだった。
「報告しなきゃいけないの?それ」
「報告っていうかさ、言うだろ。普通」
「言わないよ別に。いつかどっかで知るだろうし」
「…そうかよ」
