「なんで旭が…?」
「連絡したんだ。勝手にごめんね」
「連絡先知ってるんですか?」
「うん。ま、それなりに仲良くやらせてもらってまして」
あっけらかんと言い放つ彼に目を見開く。
仲良し。
(友達いたんだ。アイツ)
控えめだったエンジン音は徐々に大きくなって
豪勢な吾孫家の門に、旭のカウルが顔を出す。
例のごとくノーヘルらしい片割れは、私を見るやいなやキッとその目を細めて。
いつもと変わらない様子に、不意に安堵の息が漏れる。
「…じゃあ、これで」
足早く踵を返す。
旭は怒っているだろうけれど。一刻も早くこの人から離れるのが先決か。
家に帰ったら、とりあえず昨日冷蔵庫に入れておいたスイーツを食べよう。
それで一度落ち着こう。
そんなことを考えながら
碧緑の瞳から視線を逸らす。
願わくはこの人とも、もう会いたくはないものだと。
いつかきっと本当に
この“美”に、魂ごと奪われてしまうような気がするのだと。
心の中で小さく誓いを立てる。
が。
奇しくも一秒後、淡い誓約ははたと潰えることに。
「──、わっ」
踏み出したはずの足が止まっていた。
ふわり
私を包むのは、優しいシトラス。
「サヨちゃん」
「…」
「全部、ちゃんと本気だよ」
華奢に見えたはずのその腕が
私をきつく抱き締めるから。
すっぽりとそこに収まった私の身体がやけに小さく思えて。
反射的に首を縦に振った。
満足そうな彼の笑顔。
(…心臓に悪い)
