Roadside moon











そこで一旦言葉を区切る。





彼の表情が読めず、脳内でぼんやりと憶測が立つ。









“まさかアイツに、あんな助け方されるなんて思わなかった”









あのときの亜綺くんの電話、相手はおそらくこの人だったのだろう。似たようなことを話していた気がする。





つまりそこで、彼は私に何らかの期待を抱いたのだと。





胸が弾んで。





そして今、本人を目の前にして。








“普通に可愛い”








彼がどんな人間を思い描いていたのかは知らないが、これはきっと、言葉通りの意味ではなくて。





“普通に可愛い”は





“期待外れ”だったのだろう。













この憶測が合っているのだとしたら





それはすごく悲しいことだなと、なんとなく思う。





「それで、サヨちゃん」





その先の言葉。





欲を言うのならば。





私は聞きたくない。











(ウチ)においでよ」





「……え?」





「…」





え?









「…今な、なんて」





「聞こえなかったの?耳遠いね」





カラカラと喉を鳴らす。
上下する喉仏すら麗しい。





…違う。そうじゃなくて。





「…どうかな?」





「……え、え、ええっと…えっと」





「うん」





「ど、どどどういう意味ですか…」





「そのまんまの意味」





「え、っと…」





人生最大のイレギュラー。





色々なことを考えて





けれど私の頭ではやはりキャパオーバーで。





思わず黙り込む私に、彼がまた笑う。





「まあそうなるよね」





「…」





「返事は急かさないからゆっくり考えて。気長に待ってるよ」





だから今日は帰って、休んで。





「や、あの」





「ほら。お迎え」













優しい声だった。





声だけでなく、私を見る視線も、その言葉も。





それはそれでかなり戸惑うのだけれど。





そんなとき、微かに耳に滑り込むエンジン音。





これは。














「…旭、」





私史上、二番目に聞き慣れたエンジン音。