Roadside moon











──外は寒いから、と上着を手渡される。





スズちゃんだった。





何も言わずファーコートを突き付けてきた彼女に





苦いような、甘いような複雑な気持ちがする。









「…ありがとう」










導かれるまま玄関を出て
豪邸の隅にそっと佇む、木製のベンチに腰掛けた。





もちろん彼と一緒に。













「…」





「…」





続く沈黙。





(…逃げたい)





私から切り出せる話はない。
当然彼が話さなければ、そこに会話など生まれない。





「…」





なのに。





彼が黙り込むから。





思わず、私から切り出してしまう。





「…あの、」





「ん?」





「話って」





「…気になる?」





「え?」





「聞きたい?」





「…や、その」









困惑する私になぜか嬉しそうに笑う彼。





解せない。





話をしたいのだとはじめに言ってきたのは彼のほうだった。





「…な、なんなんですか」





「ごめんごめん」





ちょっと、意地悪したくなって。





「思ったより普通に可愛くてさ」





「…え?」





「別に野獣みたいな子想像してたわけじゃないけど」





「…えっと、だ、誰が可愛いと…」





「君以外に誰かいるかな」





「…え…」





からかわれているのだと思い至るのに、そう時間はかからなかった。





自分より何倍も美しい人間が
私なんぞを可愛い、などと本心から思うものなのだろうか。





分からない。





けれど、そんなこと有り得ない、というほうが理にかなっている感じがする。














美しさも纏うオーラの格別さも、先程と少しも変わらない。なのに彼が、あまりにもすっとぼけたことを言うものだから





私のなか、不本意にも緊張の糸がほぐれていく。





「…それより、お礼を言わなきゃね」





「…」





「ありがとう」





私の思考がその言葉に追いつく間もなく
彼は勇敢な少女よ、と悪戯っぽく付け足した。





「…えっ、と」





どういたしまして、とでも言うべきなのだろうが。





「大活躍だったんでしょう?」





「大活躍…」





「うん。“まさかアイツにあんな助け方されるなんて思わなかった”って」





「…」





「まだ詳しくは聞いてないけど。とにかく気になっちゃってさ」