「兄妹喧嘩はよそでやってね」
その人は、二人の剣幕に臆することなく割って入り
「亜綺」
引くつもりなど一切無かったであろう亜綺くんを
名前一つで、制してしまう。
「…」
(…なに、この人)
あまりに大きな驚愕だった。
小さく舌を打つ亜綺くんと、依然口を開こうとしない綺世と。
動けないままの私。
そんな私のすぐ隣、唯一彼女の口だけが開く。
「おかえり」
「ただいま」
「どうだった?」
「売り切れてた」
「ええ、ちゃんと見た?」
「勿論」
他愛ないというに相応しい会話。
きっと、そこに大層な意味はない。
それをこんなにも不自然に思うのは
今この状況を加味してのこと。
(…もしかして)
「あっごめん小夜、これうちのお兄ちゃん」
「サヨ?」
「うん。この子、皆瀬小夜。例の」
スズちゃんが言う。
美青年は一瞬停止して
至極明るく
「ああ、例の」と呟いた。
「はじめまして」
──吾孫 龍です。
「よろしくね」
すっと差し出された右手。
受け取ろうと力を込めるが
なぜか、手が動かない。
「うちのが世話になったみたいで」
明るい声色。
人懐こい人、というか、明るく気のいい青年であることは一目見ればよく分かる。
なのに。
なのにどうして。
どうしてここまで、気圧されてしまうのか。
「…うちの、って」
私の予感はきっと当たっている。
この人が
「どうも。俺があいつらの責任者です」
──朧の、総長。
