『世界最速JK・爆誕』
『今後の活躍に乞うご期待』
一年前。長年の念願だった金色の称号を手にした。
駆け上がったチャンピオンへの道。
密かに掲げたゴールに辿り着いた。
同時に。
なにか、大事なものを見失った気がした。
色々理由はあったけれど、どれも決定的なものではなくて。
バイクを辞めようと決めたのは、そういう小さな絶望の積み重ねで。
奇妙に噛み合った歯車が
私の背中を押してしまったのだ。きっと。
誰にも──川本さんにすら言えていない、引退の真相。
いつか。
いつか誰かに。
川本さんに。
(…言えるわけないか)
そんなことをぼんやりと考えて、一年前のスポーツ紙の記事を、そっとなぞる。
「……分かってる」
「…」
全部、私の決めたこと。
今更『名残惜しい』と振り返るのは、多分とても狡い。
「…大変そうだな」
「…うん?」
「川本のおっさん」
「…うん」
頭頂へ、やけに深刻そうな声が注がれる。
柄じゃないと軽く笑ってそう言えば、今度はそこに柔い衝撃が走った。
「…悪いことしたなと、思うよ。私も」
「…そ」
手元のスマホを強引に覗き込むその顔は、見事なまでに私と瓜二つ。
ただ、私の顔つきは男性らしくはなくて
彼──旭の顔は、中性的だが女性らしさに欠けている。
世の中、上手く出来ているわけだと思う。
