「…、」
視界がぼやける。
悔しさなのか悲しさなのか。
容量オーバーの感情に制御が効かなくなったのだ。
困惑するスズちゃんの表情。
「え、あちょっと」
やっと、目が合う。
私だって戸惑った。
今日初めて会う相手に、ここまで感情的になれるなんて思わなかったから。
「えうそ、ほんとにどうしたの」
「…う、うう」
心配そうに目を細めるスズちゃん。
彼女はきっと、出来るだけ寛大に考えて
けれど答えが出なくて
どうしようもなく、私の頭をその胸に抱え込む。
「…なんか嫌なこと言っちゃった?私」
「ちが、う」
「やっぱり怪我してるの?泣いちゃうくらい痛い?」
「ちが、」
違うの。
上手く、言葉を紡げない。
情けない。
だけど言わなきゃ。
ちゃんと言わなきゃ。
この涙が、私を助けてくれるわけじゃない。
「…小夜?」
「………ご、」
「なに?」
「…ごめん、っ」
──ごめんね、スズちゃん
「ごめんね、って」
「…」
「どうしてそっちが謝るの?」
スズの声は震えていた。
「ねえ、なんで」
私は、首を大きく横に振って答える。
「貴女は何も悪いことしてないでしょ」
「っ、」
「助けてくれたじゃない…」
違うの。
違うの。
あの行動の善し悪しは私にも分からない。
一般的に見れば善行と言っていいのかもしれない。
けれど大切なのは、あのとき私がとった行動が
彼女にとって、最適解であったかどうかなのだ。
「スズちゃんがどんな思いをするのか」
今彼女の中に残る苦い思いが
私によってもたらされたものだという事実なのだ。
「…もっと、ちゃんと考えなくちゃいけなかった」
「…、それは」
「…ごめんなさい」
