*
数十分後。
「──っサヨちん!!!」
「がっ」
「サヨちん!生きてる!?ねえ生きてる!!」
「…綺世」
「…なに」
「離してやれ、潰れてる」
「あごめん…」
「っ、は…死ぬかと思った…」
──亜綺くんに案内された先は
街外れの海沿いに絢爛たる住いを構える
例の、スズちゃんの家だという場所だった。
門の前で一度インターホンを押す。ギギと音を立てて開く“それ”は、いつか見たドラマの中に在った。
門から玄関までの長い距離。
手入れの行き届いた庭。
まるで貴族の邸宅だと思った。
思わず「ヴェルサイユ宮殿みたいだね」と呟く私に
亜綺くんが
「あれはもっとすげえよ」
と笑った。
彼女の両親は何をしているのかという私の問いに、彼は知らないの一点張り。
そこで、どうやら自分が見当違いをしていたらしいことに気がつく。
てっきり。
二人は恋人同士なのだと思っていた。
「…そういうんじゃないよ。スズは俺のダチの妹で…まあ、よく言えば幼馴染で、悪く言えば腐れ縁ってやつ」
とのこと。
「…じゃあ」
「うん」
「あの子は、朧のメンバーじゃないんだ」
「…別にアイツは不良じゃないから。俺らが巻き込んじやってるだけで」
含みのある笑い。
たとえばこの世界に、色々な環境を生きる人たちが居て、色々なところにその境界があって
それが可視化された一本の線のようなものだったら。
きっと今、彼との間に引かれた線の終わりは
私には見つけられないと思う。きっと。
「…小夜」
「あ、うん。ごめん」
そんなこんなで
玄関に辿り着いて二つ目のインターホンを押すと、スズちゃんの声で「今開ける」との応答があったので。
扉が開くのを待って。
やっと開いて。
そうしたら
なぜか、綺世がいた。
