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「──は?だから、そうだって」
「…」
「…あ何?…いいからそういうの。黙れ」
「…」
「うん、了解、おー…うん、じゃあな」
私の方を窺いながら、誰か──おそらくお仲間さんの一人であろう相手に言葉を乱す亜綺くん。
通話が切れたあと、それとなく相手を尋ねてみたもののどうにも私に言い辛い相手だったらしく。
彼は数秒うーんと頭を捻らせたあと、行くか、と私の手を引いた。
「“行く”?え、どこに?」
「スズのとこ」
「え、あっ、スズちゃん無事?」
「ん。お礼言いたいって」
スズちゃん。
電話の相手は彼女だったのだろうか。
思わず頬の緩む感じがした。
「運転頼む」
「うん?」
「運転」
「あ、うん」
(…また私の運転なんだ)
なんとなく彼に目をやった。
「多分腕イッてる」
「え」
「折れてはないと思うけど」
「だ、大丈夫?」
先刻、私にあんまんを手渡した右腕。
彼が平気そうな顔をしていたので、てっきりそう大きな怪我は無いものとばかり思っていた。
仕方がない。こればかりは私が運転するしかない。
「…わかった」
「お前免許は?」
「中免まで」
「あ、なんだ。しっかり持ってんだ」
「あはは、うん」
そうかと呟く亜綺くんに答える。
私は不良ではないから、と。
「──よし。出ます」
「ん」
彼の腕が腰に巻き付くと
やはり明らかに右腕の力が弱い。
(…全然気づかなかった)
手首を捻った。
「…変な音」
「ん?なに?」
「…ううん。なんでもない」
「そ?」
「うん」
「じゃ、案内しながら行くから」
「了解」
