まあ言っても信じねえけど。
呆れにも似た声で呟く彼に、喉の奥からヒュっと息が抜けた。
「お前、こっち側のモンだろ」
「いや、」
「見ない顔だけど…綺世んとこの新入り?」
先程より明らかに冷えた口調に確信する。
私、信頼されてない。それもすごく。
言葉を詰まらせる。
亜綺くんが鼻で笑った。
「…や、あの…」
「…」
「その、ぐ、」
「…ん?」
「ぐ、ぐ、ググって…」
「え?なんて」
「だから、その…ググって、ください……」
「…ググんの?」
「…はい」
「え俺が?」
「なんか、私の名前とか入れて、できれば私が帰ったあととかに…」
半ばヤケになってそう告げる。
亜綺くんは、一瞬呆気に取られたように静止した。
「…それは今じゃダメなの」
「そこは、まあ…」
「…でもどうせ分かんだろ?調べたら」
「そう、だけど」
お願いだからと両手を合わせる。
「わかったよ。あとで調べる」
あんまり私がしつこいからか、クスッと笑ってようやっと折れてくれた亜綺くんに安心して
「…ありがとう」と私も笑う。
ぐっと飲み干した缶コーヒーをカシャンと地面に置いて
また、少しだけ変わった彼の声に身構えて。
「…な、」
綺世も結さんも
目の前のこの人も。
私とは違う世界にいたのだと、思い出す。
「…うん?」
「小夜って呼んでい?」
「え、」
「綺世のダチなんだろ」
「はい…おかげさまで…」
「じゃあ俺とも仲良くしとくべきだろ」
本当に。たしかに違う世界にいるのに。
私が到底辿り着けはしない場所に。
なのに今
「ええ、」
「“小夜”」
そこに届きそうだと、思っている。
私のこの手が、たしかに彼に。
「…フザけてる?」
「まさか」
至って真剣。
緩めた口角をさらに妖しく吊り上げてそう言った。
いや、さっきから呼んでたじゃん。
私も笑う。
亜綺くんはもう一度
小夜、と私を呼んだ。
