Roadside moon











「……“小夜”、」





かと思えば、いきなり名前を呼ばれる。





低すぎず高すぎず





それでいてどこか妖艶なその声は





なんだか、心臓に悪い。









「お前は謝んないで」





「や、勝手したの私だし、亜綺くんとかお仲間さんに迷惑をかけることになるだろうし…」





気を遣ってくれているのだろう。





私があまり情けない顔をするものだから。





そう思い至る。





そんな私に、違うよと亜綺くんが笑う。





「スズの盾になりながらはさすがにキツかった」











その言葉に、少し前のあの路地を思い出す。





彼女の前に立ち
殴る蹴るの暴力を無言で受け続けていた亜綺くん。





ようやく答え合わせが出来た。





彼は、スズちゃんを気遣って手を出さずにいたのだ。





そんなことに今更気付かされる。





十五人の男たちを前に
彼女に危害が及ばないように。





「俺、雑な喧嘩しか出来ないから」





まるで遠い昔の話をするみたいに





とびきり優しく、亜綺くんが付け足す。





「だからむしろ、ナイスアシストって感じ」





「…」









(ナイス、アシスト…)





たった数分。されど数分。





友人の兄だという彼の人格を掴むには充分すぎる時間だった。





この人は、きっと優しい人。





現にこうして、私に笑顔を向けてくれる。





「…ていうかさ」





寛容な優しい人。





仲良くなれるかも、だなんて。





私はやはり









「──お前一体、何者なわけ?」









詰めが甘い。





「…え?」





「…あの狭さの道に単車滑り込ませて、おまけに俺とアイツらの間にぴったり横付けして」





鋭い眼光が私を捕える。





受け取れない。





「まるで、赤子あやすみたいにアイツら撒いた」





「…」





「めっちゃくちゃな運転に見えたけど、」





単車には傷一つ付けてない。





「まさか一般人、とは言わないよな」