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「──なあ、」
後ろ、もう追ってきてないよ
肩口から小さな声がそう告げる。
その言葉がどうやら真実らしいことを確認して、私はとりあえず近くのコンビニになだれ込むことを決める。
どれくらい走っただろう。短くても15分くらいの体感がある。
ひたすら道を駆け抜けてきた。
スピードを示すラインが140を超えそうになったところで一旦緩めつつ公道に戻り、そこからは雑踏の合間を縫いながら静かに動いた。
いつの間にか彼等は私たちを見失っていて
まあ同様に、私たちも彼等を見失って。
そして今に至るわけであるのだが。
「…な、なにか飲みますか」
「…や、いいよ」
「肉まんとか…」
「…いや…」
「…アイスとか?」
「……アイス?」
呆けた表情がこちらを覗く。
なにか言わなくてはと思いながら、しかしそういい案を持ち合わせているわけでもなく。
やけに饒舌に動き出す舌に身を任せていると、それまで闇に紛れていた彼の表情が目に付いた。
頼むよ、と彼が続ける。
「…ちょっと、黙ってて」
あまりに小さな声だった。
間髪いれずありがとう、とつけ足す。覇気のない声と、穏やかな苦笑。
分かってる。混乱しているのは彼の方だ。
どうしよう。
なんか私、余計なことしかしてない気がする。
そう思ったら最後、小蠅程度の羞恥と後悔が頭を離れなくなった。
「…すみません、余計なことして」
