彼らの間に無理矢理割り込んだので若干車体が重くなる。
当然避けてくれなければ轢いてしまっていたけれど
そこはさすがに慣れているらしい。双方とも見事に避けてくれた。
おかげで
お兄さんと彼等の間に幾分が距離が空いた。
ラッキー。運も私の味方らしい。
「っおい」
「亜綺さん」
「シカトしてんじゃねえよ」
「…は?」
状況を理解する能力は悪党側が一枚上手だったようだ。
瞬時に私を自分たちの敵だと見なし、厳戒態勢に入る。
しかし彼らをどうすることもできずに私は声を掛け続ける。
…簡単に信じては貰えないだろうと思っていたけど。
意外と難しいものだ。焦りが募る。
「──スズちゃん」
「お前、スズを」
「スズちゃんが“貴方をよろしく”って」
最終手段。
彼女の名前にお兄さんが目を見開いた。
「っ、」
ようやく単車に重みが増す。
予期せぬ私の登場で動こうにも動けなかった悪党たちも、再びエンジンを蒸かす私に慌てて制止をかけるが
私ももう
そう簡単には止まれない。
お兄さんの腕が腰に巻き付いたのを確認。
「落ちないでね」
エンジン全開、フルスロットル。
その速さは風をも凌ぐ。
羽のように、軽く。
「っ、追え!」
「クソっ、待てや!」
後方から注がれる物騒な怒号にひとり
ゆるりと口角を上げた。
(…待つわけないのに)
