「…」
生唾を飲み込んだ。
彼等には決して聞こえないように、小さく。
何をすべきかは分かっている。
こっそり警察でも何でも呼んで、私は逃げればいい。それしかない。
だいたい私が仮に助けに入ったとて足手纏いにしかなりえない。絶対に邪魔だ。
…なのに。
なのに足が動かないのは、どうしてなのか。
「──アキ…っ!」
女の子が叫ぶ。
なんだなんだと目を向ければ、彼女を守っていたらしい男性が膝から崩れ落ちてしまった様子。
バサリと、彼の羽織りがアスファルトを掠める。
深い藍色の羽織。
ようやく動き出す頭が、短い記憶から答えを導き出す。
あの羽織、とても見覚えがある。
