「──実は俺もうひとつ、楽しみにしてることがあるんだけど」
「なんですか?」
「小夜ちゃん」
「…はい」
目の前に広がる満面の笑み。
嫌な予感が。する。
「──“神風”」
「、っ」
「楽しみにしてるね」
「え、や、やいや、なんで」
「バイクメーカー界随一の天才と呼ばれる、あの川本社長が」
「…、」
「たった一人の少女の為だけに会社全体を動かした、ってさ」
だから、なんで。
恐怖が先行する。
「ここで会ったのも何かの縁だよ。小夜ちゃん」
「…はあ」
「俺には、君の走りを見る義務があると思うんだ」
心做しか威張っているようにさえ見える結さん。
本当に、掴めない人。
一種呆れにも似た声が零れる。
「…どこでそんな情報仕入れてくるんですか」
「言っただろ?ファンだって」
「…下手なホラーよりホラーです」
「あははは」
川本さん曰く、“神風”は商品としてすぐに売り出されることはないそうだ。
国内に三か所ほど点在するカワモトバイクミュージアムに、いつか展示する。それだけだと。
だからこそ
その存在を公に出すことはおろか
制作していたことを当人の私さえ知らなかったのだ。
それをあろうことか、今日初めて会ったはずの人が知っている。
なんだか職業、大学生でもカフェの店長でもなさそうなのだけれど。
もう。
笑えてくる。本当に。
「…わかりましたよ。もう」
「勝った」
「その代わり、いつか貴方も一緒に」
「え、俺も?」
「うん。見たいです」
──あの恐ろしいくらいにかっこいいチームを創ったのは
どうやら、貴方らしいので。
半ば仕返しのつもりで言い切った私に
結さんは困ったように笑った。
「…言っとくけど、俺速いよ?」
「わあ、楽しみ」
「平然と嘘つくなよ」
「あはは」
本当ですよ。楽しみなのは。
私。多分
貴方のことを知りたいから。
