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「──楽しんでもらえたのかな」
「はい。色々、ありがとうございます」
「いいえ。お代はいいから、気をつけて帰って」
「え!い、いや払います」
「いいからいいから。俺の顔を立てると思って」
「えええ…」
苦笑しながらわかりましたと頷く。
彼、──結さんがまたふわりと笑う。
「じゃあね。小夜ちゃん」
「…はい」
結局、喫茶店は日付が変わるギリギリまで開いていた。
いやおそらく、私のために開けておいてくれたというほうが正しいのだろうけれど。
申し訳なさそうに顔を歪める私に、こういう日はいつもこれくらいまで開けてるから大丈夫だよと言ってくれたので
私も、その優しさに甘えることにする。
「また来てね」
「はい、絶対」
「待ってるね」
(…また来て、いいんだ)
胸の奥で音がする。
それはきっと
なにかが、動き出す音。
