「…こちらこそ」
ふにゃりと笑う。
私相手に最後まで涙を見せない彼の
優しく歪んだ目尻と、その凛とした背中が
また余計に、私の涙を誘った。
「小夜ちゃん」
「…」
「最後に、君に貰って欲しいものがあるんだ」
「…へ」
「良いかな」
「…私に?」
“貰って欲しい”。
まさかと思った。
まさか。
川本さんが私を奥に呼び込む。
「気に入ってくれるかな」
多分、気に入ってくれると思うんだけど。
嬉しそうに頬を緩ませる。
川本さんの表情に、私は確信めいたものを覚える。
彼はきっと誰より
私を喜ばせる方法を知っている。
私がなにに笑い、なにに驚くか知っている。
「──おいで。小夜ちゃん」
