──時刻は21時を回る。
通常であれば、喫茶店なんかはとうに閉店しているような時間帯。
同じようにこの街でも人が散り始める時間帯だ。
けれど。
生憎、ここにはそんな時の流れなどないようで。
「…多いなあ……」
目下に広がる光の海ももうかれこれ二時間ほど同じ景色が続いているのに。
衰えるどころかその輝きは一層美しさを増している。
次々と押し寄せる単車はうねるようにして蛇行を繰り返し、時折、あの歌うような音が聞こえてきて。
私の目も疲労を無視して彼等を追い続けていた。
そうして10分ほどが経った頃。
私がチーズケーキを平らげて
3枚あるクッキーのうちのひとつに手を伸ばそうとした
その時。
──きゃあああと
一際大きな声援が上がり
「え、」
つられて下を覗き込んだ。
もう色々とお腹はいっぱいだけれど、あそこにまだ何かあるのだと知って気にならないほうがどうかしている。
「…止まった?」
…と。
まさか、集団がゆっくりとその動きを止めた。
滑らかな蛇行は見ていて心地よかったし
何だか変なタイミングで流れてくる、不格好な合唱も可愛かったのに。
なんで止まっちゃったんだろう。
結さんの言葉が、不意に頭をよぎる。
『警察』
急かされるように頭を振った。
独特な赤色。
そのランプが見当たらないことを確認し胸を撫で下ろす。
「じゃあなんで、」
(…なんで止まってるんだろう)
小さな呟きが
停滞した空気に溶けてゆく。
