「…委ねる」
「…うん。アイツらがあそこを望む限りは多分、ずっと」
「それは」
──それは、どれくらい悪いことなんですか。
震えた声でそう聞いた。
その答えに沈む頭の奥底で
私の痛みが顔を出しては、消える。
「きっとさ、悪ではないから」
全部、誰かにとっての正しさなんだろうね。
「そういうことってあるでしょ?」
「…」
「誰かと誰かの正しさがぶつかって、収拾つかなくなっちゃう、みたいなこと」
なんとなくわかる。そういう意味を込めて小さく頷いた。
「自らに向けられる無邪気な好意で、詰まった首が締め上げられる」
「…」
「もうとうの昔に心なんて失くしているのに」
──なのに心ある暖かい同級たちは、自分に憧憬の念を抱く。
「そんな場面に、何度も出くわす」
想像した。
痛いこと。悲しいこと。寂しいこと。辛いこと。
でも
私には、物理的な“それ”しか思い起こせない。
走って
転んで怪我をして。
けれど私にはあった。
『肩の力を抜きなさい』とそう言ってくれる誰かの存在があった。
…そうか。
いないのか。この人達には。
同じ目線に立って、ストップを掛けてくれる誰かが。
「──可哀想」
「、っ」
「そう思う?」
図星をつかれる。
出来ることなら思っていないとムキになりたかったが
一度でもそう思ってしまった以上、妙なプライドが邪魔をして反論できなくて
白々しく視線を外して。
熱っぽい煙が、夜空に消えるのを眺めた。
