Roadside moon











それから少しの間、結さんが話をしてくれた。





朧の話。





『関東の不良たちを束ねている』というのが一体どういう状態なのか。
そもそもの『暴走族』という集団の定義みたいなものや
彼ら彼女らが、ざっくりとどういう世界に身を置いているのか。





要所で誤魔化されているような感じはあったが、それでも彼の話す話は私なんかには触れられないようなものばかりで





気が付くと私も、あれほど深刻だったはずの尿意を忘れ窓の外を見つめ続けていた。









「…君みたいな子が興味を持つには、汚れすぎた場所だね」





「…」





かと思うと唐突に、彼の纏う空気が切り替わったのを感じる。





瞬く間に開いた私と彼との溝。





埋めなくてはと悶える私から一瞬





言葉が失われる。









──小夜ちゃん。









色のない声で私の名前を紡ぐ





「だから、君が望めばいい」





「…え」





かつてたしかに、“この世界”を生きていた人。





「どういう意味ですか、それ」





「…さあ」





驚いて彼を凝視するが





「俺が見てみたいだけなのかも」





穴の開きそうな熱視線など受け取らぬまま、彼は窓の外を見つめながら答える。





「…」





…私に、なにを望めというのか。





結さんが続ける。





「俺はあそこにいたから、知ってる」





あそこの速さも、強さも。美しさも。





この目で見てきたから。





「でも、ここからアイツらを眺める傍観者になって色々知れたよ」





「…」





「…絶対じゃないんだって。ここから見える何もかも」





それが『朧』の彼等を指す言葉なのか。
はたまた、不良と呼ばれる少年少女の集合体を指す言葉なのか。





一体どちらなのだろうと少しだけ考えて、やめた。





余計な思考は除去して彼の話を聞くことに決める。





その横顔にぶつける言葉を





今の私は持ち合わせていない。








「なのにその“絶対”じゃないものに、たまに全て委ねちゃいたくなるんだよ。皆」