一言一句
噛み締めるように話す彼の姿は優しかった。
いつだって、その優しさが私の本質の部分を見つけてくれた。
「小夜ちゃん」
「…川、本さん、」
「僕は長いこと、幸せな夢を見せてもらったね」
彼の声が震えていて
「ありがとうね。本当に」
瞬間、涙が堰を切ったように溢れ出す。
そんな私に困ったように笑って、柔らかく私の頭を撫でる。優しさと切なさの滲む手だった。
心做しか出会った頃より細まったようにも感じるその指先に、目頭がまた熱を持つ。
「…もう、行っちゃうのかい?」
「…はい」
今度はしっかりと頷いた。
彼が優しい息を漏らして。
「お別れを、言いに来ました」
私も真っ直ぐに、彼を見つめる。
「…寂しくなるね」
深く、腰を折り込んで
精一杯の“ありがとう”と
“ごめんなさい”を、一緒に。
「──今まで本当に、お世話になりました」
彼との思い出と
溢れんばかりの涙を、置き去りに。
