いっそのことトイレに行ってしまおうか。
彼らがまだ来ないことを願って。
この人の前で漏らすのだけはごめんだ。
でも。
見たいよね、絶対。この目で見たい。
心がそう言っている。
(ああもうなんでもいいっ、早く来てくれ)
切にそう願った、その時。
「──お、来たな」
月明かりを連れて顕れた彼らに
私も結さんも、その光を視界に入れる誰もが
呼吸の仕方を忘れる。
濃ゆく煙に巻かれてその姿が霞み
それでも
私の目は、彼らを捕らえて離さない。
──『朧』
深い藍色の中に、白い月が浮かぶ。
瞬く星々は今この瞬間、彼らの為に輝く。
「…結さん」
「…かっこいいでしょ?うちのガキども」
「…うちの……」
人々が向ける憧憬の視線に納得がいった。
寧ろいきすぎて怖かった。
風さえ味方につけている彼等が羨ましい。
羨ましい。
私の走りは、こんなに“自由”じゃなかった。
