Roadside moon















「え?」





メインですか





背中を背もたれに沈めながら聞けば
上擦った声が返る。





「うんほら、今日の主催者」





「主催者……あ」










『サヨちんさ、見たことある?』










『何を?』











『───朧のクリ暴』
















「…『(おぼろ)』」





「…綺世から聞いた?」





「えっと、はい」











私があのとき聞き違えた謎の暗号。





『朧』という不良集団の『クリスマス暴走』
なのだとあとで知った。





綺世も説明上手なわけでは無さそうだったので、その『朧』について深く突っ込んだようなことは理解出来なかったけれど





私にもわかったことが一つ。





『朧』というのは





県内の不良たちを束ねる
事実上の関東一とも謳われる規模の大集団のことを言うらしいとのこと。





つまり、簡単に言うととても強い人たちのことで。





口で聞いただけだからまだ私の実感として乏しいものの、ここら辺のティーンエイジャーなら皆名前を知っているのだそうだ。





ちなみに。





彼女のお兄さんも『朧』のメンバーなんだとか。









「あ、ていうか」





「うん?」





「綺世のお兄ちゃんってことは、結さんのいとこですよね」





「ああ、アキのこと」





「アキ?」





「うん。女々しい名前って言ったら怒るよ、あいつ」





「…綺麗な名前ですね」





「それもアウト」










笠原アキ、か。





兄妹揃って綺麗な名前。





にも関わらず





兄妹揃って不良とは。





世の中分からないものだなと思う。本当に。











「…結さん、その朧はいつ通りますか」





「もしかしてトイレとか?」





「……エスパーですか」





「えガチなの。ウケる小夜ちゃん」











尿意を催しているのは本当だった。





だけど同じくらい、『朧』を見たくもあった。