「、小夜ちゃん?」
大丈夫?
そう言って心配そうに首を傾げる結さん。
私は彼に、落としていた視線を合わせる。
「──走りたいです。今、すごく」
この景色をこの目で見てしまった。
もう後戻りは出来ない、と思うほど。
それほど、ふつふつと湧き上がるものがある。
言葉にせずとも。
「興奮しないわけないです、こんなの」
「…」
「いちバイク乗りとして、この光景に興奮しないのは単車への冒涜じゃないですか…」
「…っはは」
「勝負とか、してみたい…」
「ははは」
浅黒い喉仏がゆっくりと上下する。
カラカラと笑う彼を見て、なぜか夢見心地に視界が一度、グラりと歪んだ。
「──いいね」
「…え」
「見てみたいな。俺」
皆瀬 小夜の走りを、もう一度。
「…結さん」
「父に自慢できる」
「…、」
口元を緩めた結さん。
夜光に灯るテールランプ達が
不意に彼の頬を紅く染める。
──ほどよく焼けた茶色い肌。
長い睫毛が、深く彫られた二重幅に濃く影を落とす。
ほんのり桜色に色付いた薄い唇に
ふんわりと、空気を潤すサボンの香り。
私はもう一度
彼をじっと見つめた。
「…ん?顔に何か付いてる?」
「…、あっ、いえ」
この人。
今気づいたけど。
「…」
…カッコイイ。
