「聞きたいこと、って」
「…いや」
彼相手に自然と身構えていた。
人の心へ土足で踏み入る。
その行為を、底から純粋に楽しむような笑顔。
そんな彼が『昔からバイクを好きだった』と、それと『ガキの頃から』と言う。
…ああ。なるほど。
そういうことね。
口には出さなかったけれど
視線に込めて彼を見た。
「どうして」
──どうしてやめたの?
「…」
「…」
「…まあ、そうなりますよね」
「え、なに、なにその反応」
「気になりますよね。やっぱり」
「…冷静だね…」
まあ、当然だと思う。
私のことを知る人が、舞台を降りた理由を知りたがるのは。
当然なんだけれど。
ただ誰かに直接聞かれたのが、初めてだというだけで。
だから
心の奥底の動揺は、隠すに容易い。
「そうですね…」
「え、教えてくれるの」
「…知りたいんですよね?」
「いや、それはそうなんだけどさ」
「うーん…そう、大それたものでもないんですが」
「…や」
はい、と一つ息をつく。
形勢逆転。
彼の目がまん丸く見開かれた。
