「…暴走、」
「うん」
「…」
「…もしかして、無理矢理だった?」
「…え、」
「アイツ強引だったでしょ。今日、あんまり乗り気じゃなかった?」
「え、いやそんな」
「顔、暗いから」
一瞬肩が跳ねた気がした。
私。どんな顔をしてるのかな、今。
考える私の眼前で
彼──結さんが窓に向かって紫煙を吐き出す。
「…半分、そうです」
それを目で追っているうち、自然と口がそう動いた。
「……半分?」
意表を突かれた様子の結さん。
あまりに間抜けな顔をした彼が可笑しくて少し笑えば
その目に魂が戻る。
「じゃ、半分は来たくなかった?」
「うーん…正直言うと」
「…」
「…そう、なるかな……」
「ごめんね。綺世が気を遣わせて」
彼がやっとのことで吐き出したその言葉。
実に狡猾な響きと共に
子犬のような目が、私を覗き込む。
「ごめんね」
もう一度念を押すように繰り返し、ゆっくりと腰を浮かせ
じゃあごゆっくり、と小さく呟く。
流れるようなその仕草に目を瞬かせるばかりの私に
結さんは笑ったようだった。
その背中があまりに哀しそうに見えて
我慢が出来ず
「ちょ、ちょっと!待って!」
気がついた時には私から、彼の後背を呼び止めていた。
