──『姐さん』
漫画かドラマでしか聞いたことのないようなその呼称に、思わず私と彼らとの間に開いた距離を感じる。
そのまま視線を彷徨わせていれば
「……旭」
今度は、見慣れた派手な顔が目に入った。
目に入るに決まっている。
私たちは、産まれる前から一緒だったのだから。
「…もしかして、聞かされてない?」
「…うん。本人の口からは」
なのに今
世界で一人の片割れが、こんなにも遠い。
「…そっか」
そう言って寂しそうに眼を下ろす綺世に、「本人から聞いてないってだけでちゃんと知ってるよ」と
さらに一拍を開けて
「旭も私が知ってること認識してるし」と付け足した。
綺世の表情に安堵の表情が浮かんだのを見て、私は彼女の背中に手を当てる。
力を込めて押し出した私の手を、綺世は拒まなかった。
振り払うことだって容易であろうに。
「行ってきます」
「…うん。行ってらっしゃい」
「見ててね。ちゃんと」
「うん。楽しみ」
「今度一緒に走ろうね」
「あはは、考えとくよ」
「……あ!あと、一つ言い忘れ!」
「ん?」
「あのね」
──『この先の産業道路の突き当たりに、従兄がやってる小さい喫茶店があるから、そこの二階席から見せてもらうと良い』
一息でそう告げ、去っていった彼女の背を見送って。
せっかくなのでと教えられた喫茶店に向かった。
穴場だというだけあって、人が少ない割に見晴らしのよい場所だった。
