──だって。
私が、ずっと見たかった景色だ。
それが今
目の前に広がっている。
「…ずっと、見てみたかった。この目で」
「…これを?」
「うん」
「…変わってるってば」
綺世が苦笑しながら『これ?』と眼前に広がる景色を指差した。
蘇る感覚。
──これが多分、ずっと私が憧れていたもので。
あの時川本さんに拾われていなければ
私は自らこの世界を選んでしまっていたかもしれない、とさえ思う。今だから言えることなのだけれど。
「…私さ」
「うん」
「バイク、好きだったんだよね。ずっと小さな頃から」
「え、初耳だ」
「…そのきっかけが、綺世たちの世界の方で」
「…」
「純粋に憧れた。速さとか騒がしさとか、そういうの全部引っ括めて、すごく格好いいと思っちゃった」
幼い頃、一度だけ暴走族の『流し』なるものに出会ったことがある。
小さな眼が捉えた輝き。
きっと一生忘れない、私のはじまり。
「…」
「それから、どうにかしてバイクに乗りたいと思って。自分なりにもがいてたら、割といい場所に辿り着いちゃって」
「…乗れるの?単車」
綺世の顔が歪む。
初めて、彼女の“裏”が顔を見せた気がした。
「もしかして」
「うん」
「こっち側だとか、言わないよね」
「…ううん。それは、全然」
首を振る。
残念ながら私が辿り着いたのは、彼ら彼女らとは真逆の場所だった。
「えじゃあ、どういう、」
「レース始めたんだ。最初はポケバイだったけど」
「レース?」
「もう行くとこまで行っちゃった」
「は…どういうこと?」
「スポンサー。カワモトバイクのレーサー、私」
「『カワモト』?あの、私が知ってるカワモト?」
「多分?」
