──もったいない、と
ことある毎に投げかけられるその言葉に対して
何も感じなくなるまでに、随分と長い時間をかけてしまったように思う。
『お先真っ暗』
心の中では誰もがそう思っていることを知っていたから。
その言葉が、的を得ているのを知っていたから。
「──小夜ちゃん。僕たちはまだ、君に賭けてもいいと思ってる」
「…」
「契約は切らない。これが僕の答えだよ」
熱っぽい声でそう告げた
見慣れたはずの緩い顔を、私は直視することさえ出来ない。
「怪我は、どうなんだい?また走れそうなんだって?」
「…川本さん」
「もう少し休んでもらってもウチは構わないよ。『皆瀬 小夜、全快復活で首位奪還』くらいが似合うからね。君には」
「川本さん、今日は私、」
「──小夜ちゃん」
彼が今日、私の話をまともに取り合ってはくれない可能性。なんとなく自分でも予感していた。
けれど今日でなくてはならなかった。
きっと今日が
今が。
大切なことを、散々先延ばしてきた私に残された
最後のチャンスだと思った。
