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[──おい、もっぺん言ってみろ]
「…うん?」
[……俺の耳がおかしいってか?]
「いや?私結構はっきり言ったけど」
[言え]
随分と機嫌の悪そうな声だった。
画面の向こうで、どうやら彼は苛立っている様子。
「なにイライラしてんの、旭」
[行ったら殺す]
「だからなんで」
[小夜]
「なによ」
[言うこと聞け]
なにがなんだかさっぱり分からない。
旭は理由も告げずに『行くな』の一点張り。
私たち兄妹の言い争いが、長引くことを知っていたから
「…分かった」
一言そう言って、冷たく通話を切る。
「…あ、綺世?」
数秒後、通話相手が変更された。
『アヤセ』
画面に軽く声を掛けながらクローゼットに手をかける。
[どしたサヨちん、夜はまだ先だよ]
「それがさ」
──旭が、行くなって
吐き出そうとしたその一文は
[あそうだ、今からウチ来なよ]
浮き足立った綺世の声に、かき消される。
思わず言葉を呑み込んだ。
「…でも、綺世も出るんでしょう。その、クリスマス暴走とやらに」
[うん。忍もそうだけど。県内のチームはだいたい全部参加だよ]
「それまで私が居ていいの?」
[うん。途中まで一緒に行こう]
私も誘おうと思ってたとこ。
綺世が呟く。
あんまり綺麗なその響きに
私の胸から、旭の忠告が消える。
