「だってサヨちゃん、家にはもっと怖いことがあるんでしょう?」
「…まあ」
「じゃあ大人しく泊まっていきなさい。アイツらもガラ悪いけど、分別つかないような奴らじゃないから」
「………うん」
「いい子〜」
茶化すように笑いながら、私の頭を撫で回すロンさん。
「…バカにしてるでしょ」
「あはは、してないしてない」
「…」
(…まあいいか)
一応全員帰すから安心して、とロンさんが言う。
尖らせた唇をそっと元に戻して頷く私に、彼は満足気に笑う。
一歩先を行っていた結さんが「早く」と私たちを急かして。
小走りで彼に追いつく。
突き刺さる視線はまだまだ痛かったけれど
私は二人のご厚意に免じてそれらを朗らかに無視することに決めた。
「階段、気をつけて」
ステンレス製の階段をローファーでカツカツと歩く。
たどり着いたのは、これまた重そうな灰色の扉の真ん前。
小さく「前来たのいつだっけ」と呟いた結さんに
答えるロンさんが、なぜか一瞬敬語になっていた。
「…」
知らないことが多いなと思う。
たった一枚の扉に隔たった向こう側でさえも。
きっと私には未知の世界なのだろう。
そこに足を踏み入れることが
それが、喜ばしいことなのかはまだ分からないけれど。
この扉の向こうを見てみたい。
彼等の見る景色を
私だって見てみたい。
そう思うこの気持ちだけは、きっと間違いじゃない。
