Roadside moon











──そこは世にいうところの不良たちの“溜まり場”というやつで





結さんのご友人──正しくはそのお祖父さんが、かつて製紙工場として運用していた施設の跡地なのだと、手短に二人が教えてくれた。





今はどうにかこうにかして土地の名義をロンさんに移して彼等の溜まり場にさせてもらっているのだ、と。





(製紙工場…土地の名義…なんかすごい世界)





違和感はあるが、尤もらしい理由を提示されて特に反論する気も起こらず。





それらしい問題はといえば、そんな場所に果たして私が泊まる余地があるのかということなのだけれど。





肝心なボス様が『好きに使って』と言うし





現在、私の中で唯一信頼出来る大人である結さんも『小夜ちゃんが拒否反応とか起きないなら』と。





足を踏み入れるべきかUターンすべきか、少し迷って





結局二人の後を着いていくことに決めた。





時刻は23時を回る。









ギィ、と音を立てて開く鉄製の扉、その向こう側に私が想像していたものは





──お疲れ様です!総長!!





なんかそんな感じの、響き渡る大きな挨拶の声だとか。こんな時間まで家に帰ろうとしない大勢の不良少年だとか。





バイクとか、鉄パイプとか、そういう物騒なものばかりだったのだけれど。





「…」





見当外れも良いところだった。





目の前に広がる大きなスペースに、人間は私たちのほかに三人ほど。





薄汚れたツナギ姿で
缶ビール片手になにやらド派手な単車を弄っているらしい彼等は、ロンさんに対しても軽い挨拶を投げ掛ける程度で





その半歩後ろを歩く結さんを視界に入れると同時にようやく重たい腰を上げ、頭を下げる。





此処は──というより現実は、どうやら私の想像していた世界とは随分違っているらしいことに、気がついた。





彼等の目が、今度は私をはっきりと認める。





単車の持ち主らしい少年の表情が険しかった。





「…どこで拾ったんすか?」





「その辺」





「珍しいっすね」





「まあね」





彼等と言葉を交わすロンさんは、当然なのだろうが、やはり私の知っている彼とは少しニュアンスが違っている。





「…、」





なにやら不穏な視線を身体に受け、思わず彼の袖口を引いた。





怖い、というよりは





“迷い”に近い感情で。





「…ロンさん、私」





「…大丈夫、此処に来る女の子が物珍しいだけ」





「…」





でも、









言いかける私の頭を、ロンさんの大きな手がサラリと撫でる。





「大丈夫」





なんの根拠もない“大丈夫”だったけれど。





不思議と悪い気はしなかった。





私をその中にすっぽりと閉じ込める碧緑の瞳が





君なら大丈夫だから、と





そう言っているような気がした。