Roadside moon










少し歩いた先でコンビニに入る。





結さんのお店では固形物なんかを特に口にはしなかったので、とにかくなにか食べたかった。お茶とお弁当を手にレジへ向かった。





するといつの間に隣にいた結さんが私の手からヒラリとカゴを奪い去る。





「えーっと…あった、あれ、47番ください」





それが取ってつけた注文であることはあまりに明らかだった。





目の覚めるような橙色のカゴの底
勿論、これから私の腹に吸収される予定のものしか入っていない。





「結さ、」





店員さんが持つ白っぽい煙草の箱に、笑顔で頷く結さん。





慌てる私にさえ彼は微笑む。





「カードで払えます?」





「はい」





あれよあれよという間に進んだお会計をポカンと見つめながら思わず心の中で呟いた。





(かっ、こいい…)





「お腹空いたよね、いっぱい食べな」





「…あ、ありがとうございます…」





ロンさんはなにやら温かそうなホットスナックを買っていた。











そうして颯爽と退店、ロンさんに案内されたのはそこから徒歩10分ほどの場所。





途中、細い路地を縫って行くロンさんの背中をはぐれないよう必死に追いかけて、そのうち開けた一本道に出て。





自分の街とはいえ
未だ土地勘などとは縁もゆかりもない私にとっては明らかに未知との遭遇。





異様な雰囲気。





どこぞの要塞感漂う暗い色の建物が、仁王立ちで私を見下ろすという謎の構図が完成した。









「あの、ここは…」





「今日の下宿先です」





じゃじゃーん





両手を広げてお茶目にそう紹介してくれるロンさん。





「…」





(いや…こんなの……)





頬がヒクヒクと痙攣し始めるのを感じた。





いくら私が無知だとして





察しの悪いおバカさんなのだとして。





「サヨちゃん、変な顔」





「いやそりゃそうなるだろ…」





ここまで“いかにも”な状況を前にして、明るく感嘆の声を上げられるほど、肝の座った人間ではない。











「…ねえ、ロンさん」





「はい」





「ここ…な、なんですか」





「まあとりあえず、入りましょう」





「やいやちょっと待って!考えさせてください!」





咄嗟に彼の腕を掴む。ここから先に進むことを脳が──というよりは理性にも似た頭の中のなにかが、ひどく拒んでいるような感じがした。





振り返ったロンさんがうんと嬉しそうに笑っている。





直感する。





(…終わった)





「考える?」





「ちょ、ちょっと、時間を」





「…ふうん」





深い碧緑が私を捕らえる。





グッと、こちらへ近づく。











「分かってるくせに」





「っ、」











きっとこれが





ここから先起こる波乱の





すべての、幕開けだった。