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「う、さぶ」
店を出てすぐ、結さんが大袈裟に身を振う。
「さすがにねえ…サヨちゃん大丈夫?寒くない?」
言われて自分の格好をはじめて省みる。
それなりに短く整えたスカート下を覗くのは自分の生脚だった。個人的な好みで靴下は短いものしか持ち合わせていない。
一応上着は羽織っているけれど。外はたしかに寒かった。
「…」
「…小夜ちゃん?」
「…あっはい、大丈夫、」
(…ほんとだ、寒い)
帰り道。
凸凹な、私とロンさんと結さんとで歩く道。
家まで送ると言われ、断りきれずに最寄りのコンビニを通り過ぎ。
私は
自分の経歴なんかより
この季節の寒さなんかより
もっとずっと、気にするべき事があったことに気がついた。
「どした?」
「…いや、あの…」
「ん?」
結さんが右から私を覗き込む。
「…あの…このまま家帰りますよね、私って」
「え?」
「や、私、その」
(帰りづらい…)
というか。
(帰りたく、ない…)
朧にお邪魔すること。
決めたはいいけれど、旭にどう説明したらいいのだろう。
想像する。
あの日から一切口を聞いてくれなくなった旭に
『朧に入ろうと思う』と自ら告げる瞬間を。
「…」
「…」
「…殺されるかも」
クリスマス暴走、ギャラリーとして見物に行くことすら『行ったら殺す』と脅されたのだ。
朧で走るだなんて戯言、私が言い出したら。
旭は
…真剣に私を殺しかねない。本気で思う。
覚えのない恐怖心が身体の底から湧いて出た。
「…帰りにくい?」
「帰りにくい、です…」
「そっか」
じゃあ。
明るく声を弾ませたロンさんは、次に手をパンと鳴らした。
「下宿先、提供するよ」
「えっ、いいんですか」
「今日だけね」
「…神……」
「着替えは?」
「体操服着ます」
「ばっちりじゃん」
くるりと踵を返し歩き出す。
危機一髪。
血縁の身内にこんなことを考えるのもどうかと思うけれど。
遠目に屋根だけが見える実家にチラリと目を向けて、心の中で旭に謝っておいた。
(友だちの家泊まる、で、いいよね)
ごめん、旭
「スズちゃんもいる?」
「んー、今日はいないとこ」
「え?前行ったお家じゃなくてですか」
「俺ん家、いくつかあるんだよね」
「…そ、そうなんだ」
「…適当な奴」
にこやかに進んでいくロンさんに、結さんが並んだ。
