私は
そうやって私を甘やかす、ひどく優しい人を知っている。
「…そ、それって」
「サヨちゃん」
「…はい」
「いつか分かるから」
「……はい」
“いつか”
それがいつなのかを聞こうとして、やめた。
戻れなくなると思った。
聞いてしまえば。
戻れなくなる。
進めなくなる。
どこへも、行けなくなる
直感だった。
「…じゃあ一通り知ってるってことですか」
「ん、そういうこと」
「…そっか」
ちなみにこれ、ずっと密着した状態のまま話していまして。
そろそろ離して、と言おうとすると
ちょうどよく
「──離れろばか」
結さんの横槍が入った。
「…結さん」
「もう帰る?」
「え?あ、えっと…」
いつの間にウエイトレスの制服を脱いでいる結さん。
彼はロンさんの頭を鷲掴んだまま、私の方に笑顔で問いかける。
すごい絵面だ。
そういえばこの人は朧の創設者だったな、と不意に思い出した。
…ていうか。
(22、って言ってたっけ)
朧の創設者で、喫茶店の店長で。
「…」
「…え、なんか付いてる?」
「…いいえ」
どういう人生設計をしてたらそうなるんだろう。
世の中、まだまだ知らないことが多い。
「…帰りましょうか」
「へー。偶然、俺も」
「…」
「一緒に帰ろ、小夜ちゃん」
「はい」
気がつけば、時刻は21時を指そうとしていて。
そんなことに少しだけ驚きながら
私たち三人、帰路に着いた。
