ただ、不思議と彼女を相手に怯えだとか恐れだとか、そういう感情は湧いてこなくて。
変わった子なのだ。
この辺で一番大きな
男子禁制のヤンキー集団。
──『忍』というのだと、彼女が笑った。
それがいたく普遍的で、迷いのない笑顔だったから。
なんて綺麗に笑う子なんだろうと
心からそう思ったから。
なんとなくそれで良いやと思った。
友人になるには十分すぎる理由だった。
「ねえねえ、サヨちん」
へらりとした笑顔がすぐそこまで迫って、引き気味にうん?と返す私に
一層笑みを深める綺世。
「今夜さ、暇?」
「今夜?」
「うん。夜」
「…ヒマだけど。多分」
二拍ほど置いてそう答えれば、その表情が嬉々としたものとなり
間もなく、私の手にとんでもない圧力がかかる。
「いだっ、」
「えへへ、ありがと」
「わかった、わかった言うこと聞くから勘弁して」
骨が軋む音がした気がした。
どうか気のせいであってほしい。
「…なんかあるの?夜」
「サヨちんさ、見たことある?」
「なにをさ」
「──朧の、クリ暴」
「な、なに?オンボロのクリボー?」
「…え?まじで言ってる?」
「いやいや、暗号言ってたぜ今」
目の前でため息をつかれる。
いや、だけどさ。
そこんとこ無知だった私には少し分の悪い質問だというか。
なんだって、と聞き返した私に
「サヨちんさ、たまにばあちゃん味あるよね」
そうケラケラと笑い出した綺世を
私は慌てて廊下に連れ出した。
