少し。
否、かなり。
「…付き合うの?」
「ちょ、ちょっと、待って」
「まあたしかにイケメンだし、良い奴だけど…」
「待って、」
「でもあそこ、実家がなあ…」
「あ、綺世」
「うーん……でも、これはサヨちんの気持ち次第…」
「だから、ちょっと待って!」
知らぬ間に話が進む。
小さく震える彼女の腕を思わず掴んだ。
本当に。解釈違いにもほどがある。
「つ、付き合うってなによ!別に好きとかじゃないよ!」
「お、うおサヨちん、」
「なんなの!!」
私は『朧に来るか』と言われただけで。
返事は今度でいいと言われただけで。
だから私も今度会って、もう一度ちゃんと話をしようと思っていただけで。
付き合うなんて、一言も言ってない!!
「まじで意味が分からん!!」
「お、おお……」
詰め寄る私に、今度は綺世が後ずさる。
クラスメイトの視線はワっと私たちに集中していた。
「い、いやだから……」
一瞬踏みとどまるように言い淀んだ綺世の言葉の先を。
理解するのに、少し時間がかかった。
「…その、喧嘩のできない女の子をチームに入れるってことはつまり、その子を守らなきゃいけないでしょ、」
「まもる、」
「うん…そんな話、私もあんまりたくさんは聞いたことないけどさ」
「…珍しいことなの?」
「かなり…だから、サヨちんがバイク出来るのは前提としても、なにかしらそういう、ちゃんとした定型みたいなのは着いて回ると、思うのね」
「…うん…」
やはり、よく分からない。
分からないのだ。
“定型”
「ちゃんとしなきゃいけない」
“ちゃんと”
「龍くんがどういうつもりなのか分からないけど、少なくとも可能性として。小さくはないよ、きっと」
ちゃんと、定型として。
私と彼が、恋人になるという“可能性”。
